中南米の紙幣


中南米の諸国では,遺跡などをモチーフにした美しい紙幣やコインが多く見られる。収集趣味はないのだが,気に入った紙幣は銀行や店を探し回って新札を集めて持ち帰った。メキシコから南下しながら紹介する。




最初はメキシコの100ペソで,当時で300円位。昔にあった板垣退助の100円札に色と顔が似てる?


裏面の背景の遺跡は,メキシコ中部(メキシコ高原南部)にあるトルテカ文明のトゥーラ神殿のもの。トルテカ文明っていうのは,ティオティワカンを都とするアステカ文明の後に生まれた文明で,トゥーラが都だった。

中央の寝転んでいる人像は人身供犠用の祭壇で,この上に人間を逆エビ状態にして手足を押さえつけ,神に捧げる為に生きたままで生贄になる人間の心臓をえぐり出す。マヤ文明のチチェンイッツァ遺跡のチャク・モルの神殿の最上階でみた祭壇とそっくりだ。人身供犠は時代の王によって禁止されていた時期もあるらしい。


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学校で歴史を習うと,「●●時代の△△朝廷が倒れた後,▲▲が支配する○○時代になる」なんて教わるが,政権の長が変わってところで,実際には文化習慣や世の中や人の考えが一夜にして変わることはありえない。歴史は連続しているわけだし,文明は重複して変化していくものだ。特に情報伝達手段の遅れていた古代文明にあっては,中央での変化はうねりのように辺境の地へと伝わって行ったに違いない。

中央アメリカに存在した文明は,地理的にも近いので,相互に影響しあっている。アステカやトルテカ(共に北部・中部メキシコ)とオルメカやマヤ(南部メキシコ以南)も互いになんの影響もなく全く独立して存在していた訳ではない。当時重要だった信仰についても同じで,中米の古代文明では,文明毎に呼び名が違うが同じ神っていうのが居たりしてややこしい上に,マヤは多神信仰の文明だから沢山の神がいて更に複雑。

例えば,雨神はマヤではチャク,アステカではトラロックと呼ばれるが同じ顔をしている。象みたいな長い鼻をした神。なんでも東・西・南・北にそれぞれ赤・黒・黄・白の4人(人じゃないけど?)のチャクが居たそうな。 色の違った神が方角毎を守るというのは,なんだか中国(古代日本)の四獣神,青龍(東)・白虎(西)・朱雀(南)・玄武(北)と似てる。こっちは青・白・朱・黒だけど,赤・白・黒が共通しているというのは色の基本だからだろう。

今のメキシコの遺跡にある像には殆ど色は残っていないけど,博物館にある石像には残っているものもある。ボナンパクというかなり奥地の当時発掘途中だった遺跡の壁画は,色がはっきりと残っていた。空気に触れると劣化が進むから,もう消えたかも知れないな。

奈良の明日香にある高松塚やキトラ遺跡のこれらの壁画に四獣神が描かれているのは有名だが,本物は埋め戻されているから見えるのはレプリカだけだ。

メキシコの国立考古学博物館には,1日では到底見られない量の展示品があり,2日ほど見たが,感想は「疲れた」だった。あまり大きな博物館は個々の展示物の印象が薄れるから,その意味では小さめの方が好きだ。

ラテン文明に共通して現れる「羽毛の蛇」という神は,マヤでは「ククルカン」という名の最高神(創造神)に,アステカ(ティオティワカン)やトルテカ(トゥーラ)では「ケツァルコアトル」という名の神になる。

蛇と鳥は世界のどの文明でも神と関係がある重要な生き物だ。人間が感じ,想いを馳せるものには大差がないってことの証拠だろう。

良い人・悪い人・優しい人・冷たい人・うっとおしい人・心地よい人,こういった違いはただの個人差。どの国の人も,親しい人が死ねば泣くし,恋をすれば優しく微笑む。楽しいときには笑うし,腹を立てればすねたり,怒鳴ったりする。人は皆幸せに暮らしたい。地域も民族も時代も関係ない。不幸を好む人は居ない。そう,なにも違いはしない。




これもメキシコの50ペソ。50ペソは,当時はもうコインのみになってしまっていたと思う。50ペソコインをはじめ,メキシコのコインは皆デカクて思い。財布はすぐにパンパンになるし,ジーパンのポケットに入れるとポケットが破れる。コインにも遺跡・遺物が多くデザインされている。

背景の遺跡はメキシコ中南部のサポテカ文明のピラミッドで,有名なモンテ・アルバン遺跡だ。マヤの遺跡じゃないので見にいかなかったが,この出土物(中央の像)は博物館で見た。明らかにマヤ人とは違った風貌の顔だ。




メキシコの南隣の国グァテマラの1/2ケッツァル(=ケツァール)。「0.5」っていう単位の金も珍しい。当時で約140円。当時は1ケッツァルが1USドルだった。他の国々ではブラックマーケットがあったのに対し,この国ではほぼ公定価格でドルが流通していた。

表の鳥がケッツァル。絶滅に瀕している国鳥で,野生を見かけることは滅多にない。飼われているのを見たが,メタリックグリーンと真っ赤な羽毛のド派手な鳥で,飾り尾羽が非常に長いとても美しい鳥。

体自体はスズメとムクドリの中間位の大きさだけど,尻尾の飾り羽は50cm位あったように思う。その名が通貨単位になっているなんて,いいね。さしずめ日本なら「1トキ」・「2トキ」ってところだ。

裏はユカタン半島南部のジャングルにあるマヤのティカール遺跡の1号神殿。ここには5つの同じ様式の大きな神殿がある。旅行記中にもあるように,ジャングルの中に突如現れる神秘的で壮大な遺跡群だ。とても好きな遺跡で,往路と復路に2度立ち寄ってそれぞれ1週間ほど過ごした。実は,中学生の頃,この神殿の写真を見て,中南米に行くことを決意したのであった。


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神の名である「ケッツァルコアトル(羽毛の蛇)」とは,この「ケッツァル」と「コアトル(蛇)」という言葉から出来ている。マヤではククルカンという名の神になっているが,マヤ神話にもこの「ケッツァルコアトル」の話が出てくる。




南隣の国オンドゥラス(ホンジュラス)の1レンピラーで,当時レートで100円位。

裏の遺跡はマヤのコパン遺跡。そこにある「球戯場」だ。修復されたこの遺跡は見た。派手な神殿はないが,札の右端にある緻密なレリーフで存在感を誇示しているエスティエラ(石碑・石像)が数体配置されているのが印象的な遺跡だ。

遺跡全体が公園になっていて,入り口にでかいオームが何羽も居た。怖いくらいにデカイ。カラスよりも大きい。




5コロン札だ。33円位と小額紙幣だが,当時の中南米のお札の中で,最も美しいとデザインだろう。世界中の紙幣の中でもこれほど綺麗なものはないと思う。グァテマラの0.5ケッツァール同様にお気に入りの紙幣だ。国名であるコスタ・リカ(豊かな海岸)の百年前の活気ある様子が絵画のように描かれている。

表の蘭の花はコスタ・リカの国花だろうか。熱帯のジャングルから冷帯の高山を持つ国で,虫や花の種類が多く,美しいものばかり。もう一度行きたい国。世界で唯一,戦争放棄と軍隊の放棄の明確に憲法で謳っている国だ。




さて,中米最南端のパナマという国は珍しい国で,自国紙幣がない。UDドル札がそのまま流通している。コインのみがアメリカのものとパナマのものとの2種類が流通している。

そのパナマを越えて,南米に渡るとコロンビアに入る。ここから下の3枚の紙幣は既に流通していなかった。1ペソが4円。10ペソは,プレインカ文明の遺跡で,サンアグスティン遺跡の人体石像。流通していない紙幣は,現地で友人などがプレゼントしてくれたものだ。




20ペソは,「ムセオ・デ・オロ(金の博物館)」の陳列物らしい。インカ文明のものみたいだ。




この2ペソのみ新札じゃない。これにデザインされているものも「ムセオ・デ・オロ」の収蔵品らしい。多分,「オーパーツ」として有名な三角翼の飛行機の形をした金の出土品がある博物館じゃないかと思う。




500ソルはペルーの紙幣。遺跡は印刷されてないが,表がなんだか子供銀行券みたいで面白かったので持ち帰った。裏は,東部低地アマゾンの開拓の様子みたいだ。約70円。




中南米の極貧国ボリビアの50ペソ紙幣。貧乏な国の割りに「すかしの縦帯」がすき込まれたハイテク札だ。デザインはティワナコ遺跡の太陽の門。旅行記の中に写真があったやつだ。こう見ると大きそうだが,実は写あまり大きくはない。

10ペソが4円だったが,短期間に一気にインフレが進んだ。アルゼンチンのインフレも驚異的だったが,ボリビアに入国する際,国境で余った金を換金したが,80サイズのダンボール程にもなったのには笑った。