アルゼンチン 6 パンパの草原
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パタゴニアを抜け,パンパに入る。
空と陸の交わるところに吸い込まれていく道路に乗って,北を目指す。目指すといっても目的地があるわけではなかった。
町はどのあたりにあるのだろう。バイクを止め,地図を広げる。路傍の可愛い花たちがざわざわとおしゃべりをしている。
このまま町まで走ろうか,この辺りで夜をやり過ごそうか。目的の地はいつも自分の中にあるだけ。
太陽はパンパの縁を這い登り,一日を照らし出し,やがてまた別の縁へと陥ちていく。地平線に溶け込んでいく太陽を眺めながら,道端をから少し入った大地にテントを張った。
南十字星のきらめきも,無数の名も知らぬ星ぼしの光さえも閉じ込まれてしまう闇の中で,一筋の流れ星が地平線に彼方に向かって馳せる。
ウシュアイアの免税店で買ったウオークマンに,ペルーで買ったアルゼンチンのフォルクロレのカセットを入れた。小さなヘッドフォンからは,ケーナとシークの音。広大なパンパに独り向かう農民の想いが心に届く。
「未知との遭遇」そんなSF映画を思い起こさせる風景に,俺は未知の「心」と遭遇した。「どうしてこんなところに居るんだろう...」
パンパを走る道とは違い,人生には沢山の岐路がある。人がそれを選択するのか,それとも運命に強いられているだけなのか。そして,人はそれぞれの風景の中で生きていく。
やがて,この地が人間の生活の営みを支えているところなのだ,と風景が主張を始める頃,俺は覚醒する。
よくわからぬまま,一日走り続けると町がやって来る。人間の臭いを感じるのは暫らく振りだ。
木があった。人影はない。
また,太陽がパンパに沈む頃,小さな村に迷い込んだ。
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