ページ内では出来るだけ時系列順に写真を並べたが,詳細不明の為に時代が前後していたり,形式名が誤っている可能性があることを含みおいて欲しい。


グノーム(Gnome)社 フランス

1900年,26歳のフランスのローラン・サガン(Laurent Seguin)は,弟のルイ(Louis)と共に「グノームエンジン社(Societe des Moteurs Gnome)」を設立した。当初は,ドイツのオーベル・ウーゼル(Oberursel)発動機会社から「Gnomエンジン」のライセンスを買い受け,単気筒の4馬力灯油エンジンを開発し,グノーム(Gnome)としてフランスで主に工業用に販売を行った。第1次大戦前になると,ドイツのオーベルウーゼル社がこのグノーム社のエンジンをライセンス生産するようになるが,こういういきさつによるものかも知れない。

グノームの航空機用エンジンの売り上げ数は,1908年の3台から始まり,1913年にまでの5年間で3638台以上に及ぶ。高価なニッケル鋼を多く使用していたので,他のメーカーの価格よりもはるかに高額であったにもかかわらず,この数は他の全メーカーを合わせた売り上げ数を上回わるものであった。



ルイスは弟と共に,自動車用エンジンを製造する為に,グノーム社を創立したが,最初に開発したのは航空機用の7気筒ローターリーエンジンであった。この1909年に完成した「グノーム・オメガ(Gnome Omega)」は重量75kg,出力50馬力であった。最終的にはフランス国内だけでも1700,他のヨーロッパ諸国やアメリカでも生産された。またこのエンジンはヘンリー・ファルマンのファルマン3でも採用され,時速100kmの壁を破る記録を打ち立てた。



このシステムでは,中空のクランクシャフトから混合気をクランクケース内に送り込むが,吸気バルブはピストン・クラウン中央に設けられており,このバルブからクランクケース内のオイル・ガソリン混合気を吸入するようになっていた。回転慣性による吸気バルブの誤作動を防ぐ為に,カウンター・ウエートも取り付けられていた。

初期から中期のロータリーエンジンにはキャブレターやスロットルに当たるものがなく,燃料や空気の遮断や,プラグの通電・遮断で出力を変更するしかなかった。その間は,慣性でエンジンは回り続けるので,完全に停止しないうちに遮断を解除すれば再着火し,回転を得ることが出来た。



プッシュロッドが要らない点はいいのだが,インテイクバルブのメンテナンスには,いちいちシリンダーヘッドを外さないといけない上に,このバルブがまた詰まり易いというのが最大の欠点であり,僅か20時間の運転毎にシリンダーを分解して,メンテナンスを行う必要があったそうだ。燃費も悪かった。また,ロータリーエンジン全般に言えることだが,オイル消費量はガソリン消費量の1.5-〜2倍近くに及んだ。勿論,ひまし油(トウゴマ=ヒマの種)が使われていた。




グノーム社エンジンのラインナップ

オメガ,アルファ,ベータ,デルタ,ラムダ,ラムダ・ラムダと発展し,ロータリー式の最終モデルとして,9気筒のデルタエンジンを2重にしたような200馬力のBB18cに行き着く。

エンジンの場合,ファーストランと実用化(商品化)の時期に開きがあったりするので,先に開発されたものの方が新しいエンジンとなる場合がある。以下には,実用年順と思われる順番で詳細を記載して行く。ただ,アルファとベータとBB18cエンジンに関しては省略する。


Gnome 7 Omega【Gnome Monosoupape system=モノ・スーパップ(単バルブ)】 1908年ないし1909年 直径84cm 長さ79cm 乾燥重量75kg 出力50hp 代表的採用機: Bleriot XI,  Avro Type 500,  RAF F.E.2一号機(写真はF.E.2b),  Nieuport Monoplane,  Blackburn Monoplane など






Gnome 7 Lambda 1911-1912年 直径93cm 長さ112cm 乾燥重量96kg 出力67〜80hp 代表的採用機: Avro 504,  Fokker E-I,  Nieuport.10, (すぐ下の写真はソッピース・タブロイド=シュナイダー:当初はラムダエンジンを搭載,後にデルタエンジンが搭載された。写真はオメガエンジンのように見えるが改良型のラムダかも知れない。)





1913年になると,この「隠れたインテイクバルブ」を廃し,新型の単バルブ(Monosoupape「モノ・スーパップ」)システムに移行する。これも独特な構造を持つ新システムで,排気兼吸気バルブを持つ2ストロークエンジンのような4ストロークエンジンである。

シリンダー内の負圧を利用してこの排気バルブから外部の空気を取り込み,同時に2ストロークエンジンのピストンバルブのようにクランクケース内からシリンダー脇のスリットと複数の穴を通して,オイルとガソリンの混合気を取り込む仕組みだ。

不可能を工夫により可能にするという情熱がそのまま見て取れるこのような仕事を見せ付けられると感動すら覚える。



Gnome 9 Delta 1909年初動1914年実用 直径102cm 長さ115cm 排気量16L 出力100hp 代表的採用機: Avro Type 500,  RAF S.E.2,  Vickers F.B.9 Gunbus, 



この時代にはグノーム・モノスーパップ(Gnome Monosoupape)エンジンは,各国で多数ライセンス製造され,別に述べるクレルジェ(Clerget)と並んで,ローターリーエンジンとして代表的な存在となる。また上記の写真のようにツインプラグ仕様のものもある。(下はニッケル鋼から削りだすシリンダー)



これらのエンジンをベースにして派生したエンジンも多い。下の写真はラムダエンジンを2重ラジアルにした「グノーム(Gnome)社ラムダ・ラムダ(Lambda-Lambda)=ダブルラムダ(Double Lambda)とも呼ばれる」160馬力エンジンのドイツコピー版のオーベルウーゼル U.III エンジン。オーベルウーゼル社のグノームのライセンス下のエンジン名には「Ur」が頭に付く。オーベル・ウーゼルついてはページを製作中。




グノーム・ローヌ・クレルジェ・オーベル=ウーゼル以外にもジーメンス=ハルスケやベントレーもローターリーエンジンとしては有名である。それらを含めた参考資料(洋書)として「The Rotary Aero Engine」を紹介しておく。データが大きいので2部に分割した。
The rotary aero engine 前半

The rotary aero engine 後半